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曇天パッチ

『殴る、斬る、撃つ』 暴力エンターテイメント好きの視点

『真夜中のカーボーイ』 生まれ変わるための決別

真夜中のカーボーイ
Midnight Cowboy
監督 ジョン・シュレシンジャー
脚本 ウォルド・ソルト
原作 ジェームズ・レオ・ハーリヒー
製作 ジェローム・ヘルマン
出演者 ジョン・ヴォイトダスティン・ホフマン

「ダーリング」「遥か群衆を離れて」のジョン・シュレシンジャー監督による異色作品。虚飾の大都会ニューヨークの混沌から、必死に浮かび上がろうとする2人の若者の物語。ジェームズ・レオ・ハーリヒーの作品を、ウォルド・ソルトが脚色した。撮影はコマーシャル出身のアダム・ホレンダー、音楽はジョン・バリー、編集はヒュー・A・ロバートソンが担当。製作にはジェローム・ヘルマンが当たっている。出演は「卒業」でスターとなったダスティン・ホフマン、舞台出身のジョン・ヴォイト。共演はベテランのシルヴィア・マイルズ、ブロードウェイ女優ブレンダ・ヴァッカロ、「ニューヨーク泥棒結社」のジョン・マクギバー、バーナード・ヒューズなど。(映画.comより抜粋)

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主人公のジョーは自身の魅力を武器にのし上がろうと、テキサスからニューヨークにやってくる。男娼になろうともがく中で、病弱ホームレスのラッツォと出会い、奇妙な同居生活を送る事になる。やがて男娼として成功する兆しが見えてくるが、ラッツォの病気が悪化したことをきっかけに、二人は暖かいフロリダへ行く事を決意する。

 

言わずと知れたアメリカン・ニューシネマの代表作。誰もが目を背けたくなるような現実を、現実逃避のはずの映画が描き出す。カメラは無気力だったり無軌道な若者の悲惨な生活を捉え、60年代のアメリカが抱える価値観、広大な国土を自由に行き来できるはずのアメリカが抱える閉塞間などを暴いていく。世界はいつも陰鬱でどん底なのだ。

 

本作はこれらに加え、信仰、同性愛、売春といった要素で構成されている。そういった要素の考察は多くの方がされているので、ここでは印象に残った事について書いていく。それは、ニューヨークのどん底で生活しているジョーが、自身を構成している要素と向き合うことで成長し、事態が改善していくことだ。

 

例えば肌身離さず持ち歩いていたラジオを質屋で売った時を思い出してみよう。いつも宗教ラジオを聴いていて周囲に溶け込まなかった彼は、その後レストランで初めてニューヨークの住人と交流し、パーティーに招かれることで、人脈を作っていく。あるいは、毛皮を身にまとった女性とのベッドシーン。ジョーは自身の中にある同性愛的な要素を指摘されるが、それを否定するように暴力的なセックスをすることで、男娼として認められるようになる。

 

映画の冒頭、ジョーはいかにも田舎のカウボーイといった出で立ちでバスに乗り込む。彼はニューヨークでどん底を味わうことになり、そこには観客が求める希望がないように思える。しかし、周囲とのコミュニケーションをとるようになり、自身のトラウマやセクシャリティと向き合うことで、カウボーイとしての自身を脱ぎ捨て、成長とともに閉塞感から逃げ出すきっかけが生まれてくる。もがき苦しみながらも一歩ずつ前進していく姿に、他のアメリカン・ニューシネマには見られない希望を見出すことができる。

 

フロリダへ向かう道中で、ついにジョーはカウボーイ服を捨て、フロリダらしい陽気な服に着替える。明るい未来に期待が膨らむが、目的地を前にしてラッツォは息を引き取る。アメリカン・ニューシネマらしい陰鬱な終わりにも捉えられるが、ここではバスに乗り込む前にジョーが何をしたかが重要だ。ジョーは老人に暴力をふるい、金を奪い取るという犯罪により一線を越えてしまう。これは過去に浸礼を受けたジョーが、再び罪をおかしてしまいただの人間に戻ったとも受け取れる。つまり、信仰を捨てたのだ。ニューヨークで見つけた友と死別してしまったが、最後にジョーは自身を構成する要素全てと向き合い、決別する。これまでの流れでみれば、成長して生まれ変わったジョーは、必ず幸せになれるはずだ。そんな予感がするからこそ、本作は多くの観客の記憶に残る名作なのだ。

 

 

 

個人的に アメリカン・ニューシネマといえばこの4本。

  

  

ダーティハリー [Blu-ray]

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映画『ハドソン川の奇跡』 表面化してこない真実

ハドソン川の奇跡

Sully

監督 クリント・イーストウッド
脚本 トッド・コマーニキ
原作 チェスリー・サレンバーガー、ジェフリー・ザスロー(英語版)
製作 クリント・イーストウッドフランク・マーシャル、ティム・ムーア、アリン・スチュワート
製作総指揮 キップ・ネルソン、ブルース・バーマン
出演者 トム・ハンクスアーロン・エッカートローラ・リニー

名匠クリント・イーストウッド監督がトム・ハンクスを主演に迎え、2009年のアメリカ・ニューヨークで起こり、奇跡的な生還劇として世界に広く報道された航空機事故を、当事者であるチェズレイ・サレンバーガー機長の手記「機長、究極の決断 『ハドソン川』の奇跡」をもとに映画化。09年1月15日、乗客乗員155人を乗せた航空機がマンハッタンの上空850メートルでコントロールを失う。機長のチェズレイ・“サリー”・サレンバーガーは必死に機体を制御し、ハドソン川に着水させることに成功。その後も浸水する機体から乗客の誘導を指揮し、全員が事故から生還する。サリー機長は一躍、国民的英雄として称賛されるが、その判断が正しかったのか、国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われる。(映画.comより抜粋)


C・イーストウッド監督×トム・ハンクス主演『ハドソン川の奇跡』予告編

 

2009年に起こったUSエアウェイズ1549便不時着水事故の映画化作品(原題:Sully)。監督するのは現在86歳クリント・イーストウッド。主人公サリーは航空機を無事ハドソン川に不時着させるも、その後は機長としての責任を国家運輸安全委員会から厳しく追求されることで、精神的に追い詰められていき、度々墜落の悪夢と幻覚に悩まされるようになる。本作は、調査により浮かび上がってくる疑惑、サリーを取り巻く環境といった様々な要素が絡み合い、ただのノンフィクションではなく、観客を巻き込んだ手に汗握るエンターテイメントに仕上がっている。

 

本作を一言で表すとすれば「一本のピンと張られた糸」だろう。一切の無駄がなく、装飾的な演出は排除され、途中でダレることもない。張り詰めた空気感で満たされた、ミニマルな映画だ。

 

作中でサリーが妻ローリーと初めて電話する際の会話を思い出してみよう。状況を伝えたいサリーだが、報道陣がうるさいためローリーは感情的になり電話を切ってしまう。事前にサリーの家庭に人並みの問題があることを臭わせる台詞があるため、このさりげない会話だけで、サリーが抱える問題や家族関係が垣間見えてくる。本作ではこうした無駄の無い演出が多数見られる。観客の知っている不時着水事故の事実だけでは見えなかった背景や感情が巧みに描かれており、さすがはイーストウッドと思わず膝を打つ。

 

出演者の多くがキャリアの中でもベスト級の演技をしている点にも注目だ。イーストウッドの撮影といえば、演技への指示は最小限で、出演者に考えさせて演じさせることで有名だ。救出シーンでは本物の救助隊員が多数出演しており、それに混じって出演者達は自分が今なにをしたらいいのかを考えながら立ち振る舞う。こうした環境を作ることで、作品のリアリティは格段に上がるし、出演者達の緊張感ある演技を引き出せている。こんなところも、さすはイーストウッドと(以下略)。良い所がありすぎて膝が壊れるかと思った

 

実話は誰もが結末を知っているから映画化は難しい。イーストウッドはインタビューで「彼らはその真ん中を知らない」と言った。観客はいつどこで何が起きたかは知っていても、その真ん中に何が起こっていたかは知らないというわけだ。表面化してこない部分を描ききった本作は、イーストウッド作品では何本目かわからない傑作である。私はイーストウッドの映画が公開される度に「これで最後かも・・・」と、年に一度するかしないかという深刻な顔つきでスクリーンと対峙している。来年も再来年も新作が公開されることを心の底から願う。

 

次回作の「衝撃に備えろ!」

 

 

 

イーストウッドはここ10年ほど監督作が全て傑作という偉業を達成している。 

  

 

 

聲の形(2016年)

監督 山田尚子
脚本 吉田玲子
原作 大今良時講談社コミックス刊)
出演者 入野自由早見沙織悠木碧小野賢章、金子有希、石川由依潘めぐみ豊永利行松岡茉優

週刊少年マガジン」に連載され、「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」などで高い評価を受けた大今良時の漫画「聲の形」を、「けいおん!」「たまこラブストーリー」などで知られる京都アニメーション山田尚子監督によりアニメーション映画化。脚本を「たまこラブストーリー」や「ガールズ&パンツァー」を手がけた吉田玲子が担当した。退屈することを何よりも嫌うガキ大将の少年・石田将也は、転校生の少女・西宮硝子へ好奇心を抱き、硝子の存在のおかげで退屈な日々から解放される。しかし、硝子との間に起こったある出来事をきっかけに、将也は周囲から孤立してしまう。それから5年。心を閉ざして生き、高校生になった将也は、いまは別の学校へ通う硝子のもとを訪れる。(映画.comより抜粋)

映画『聲の形』 本予告


映画『聲の形』 ロングPV

評価の高い大今良時の原作漫画を、『けいおん!』や『たまこラブストーリー』の山田尚子監督が映画化。障害を描いたストーリーゆえにどの程度受け入れられるのか心配していたが、『君の名は。』のヒットに引っ張られる形で、ちゃんと客が入っているようで安心している。

 

原作はハードなイジメ描写や、登場人物達の暗部が執拗に描かれている。読み終えると、主人公たちを祝福したい気持ちがある一方で、なんとも嫌なものを見せられたと心が沈みこむ、相反する気持ちが湧き上がってくるという、一筋縄ではいかない漫画だった。では映画版はどうだったかというと、将也と硝子に焦点を絞ることで、原作にあった負のイメージというのは最小限に抑えられていた。また、人物の内面はちょっとした仕草のクローズアップで表現されている。そうした抑えた演出も、人間関係が複雑だった原作を、二時間にまとめつつ物語を破綻させないことに一役買っている。


仕草のクローズアップで人物の内面を描く演出が、山田尚子監督の得意技であることは、アニメファンなら誰もが知っていることだろう。特に有名なのは足のクローズアップだ。『けいおん!』では女子高生達の距離感やバンド活動の楽しさを足のクローズアップで表現した。『たまこラブストーリー』では初めての恋愛に思い悩む女子高生達の内面を表現した。そして『聲の形』では内面だけではなく人間関係までも表現した。

 

人物が本音で話すとき、肩幅に開いた足は地面に根を張ったようにどっしりと立っている。言いづらい気持ちを伝えるときは、やや内股になった足がふらふらと動き続ける。こうした足の動きだけで心境や人間関係を表現できるのは、丁寧に作りこまれたディテールがなせる技だ。特に、将也が病院から抜け出してと硝子と会うシーンでは、こうした作りこまれた動きと、あえて演奏中のノイズまで収録した楽曲が合わさって、十代特有の不器用さがぶつかり合う様が不快に感じるほど伝わってくる。のめり込んで観ていると、何度も息ができなくなってしまうほどだ。

 

間違いなく山田尚子監督の最高傑作。秋の夜長を楽しめる素晴らしい映画なので、ぜひ多くの方に観て欲しい。

 

 

 

どちらも監督の代表作であり、ディテールの作りこみは必見。 

映画 けいおん!  (Blu-ray 初回限定版)

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 いままで一度も興味を持った事がなかったが、映画館で主題歌を聞いてみたら、歌い方が驚くほど映画とマッチしていた。

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君の名は。(2016年)

君の名は。
your name.

監督 新海誠
脚本 新海誠
原作 新海誠
製作 川村元気、武井克弘、伊藤耕一郎
製作総指揮 古澤佳寛
出演者 神木隆之介上白石萌音長澤まさみ市原悦子

雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」など、男女の心の機微を美しい風景描写とともに繊細に描き出すアニメーション作品を手がけ、国内外から注目を集める新海誠監督が、前作「言の葉の庭」から3年ぶりに送り出すオリジナル長編アニメ。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」で知られ、新海監督とはCM作品でタッグを組んだこともある田中将賀がキャラクターデザインを担当し、「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などスタジオジブリ作品に数多く携わってきた安藤雅司が作画監督を務める。1000年ぶりという彗星の接近が1カ月後に迫ったある日、山深い田舎町に暮らす女子高生の宮水三葉は、自分が東京の男子高校生になった夢を見る。日頃から田舎の小さな町に窮屈し、都会に憧れを抱いていた三葉は、夢の中で都会を満喫する。一方、東京で暮らす男子高校生の立花瀧も、行ったこともない山奥の町で自分が女子高生になっている夢を見ていた。声の出演は神木隆之介上白石萌音。(映画.comより抜粋)


「君の名は。」予告

君の名は。』の累計動員数は850万人、累計興行収入は111億円を突破したらしく、ニュースで知ったとき驚きの声が出た。なぜなら、僕自身が本作を観た時の感想は「雑すぎて、過去作と比べて新海誠の代表作といえるような代物ではない」だったからだ。

 

特に気になった二点について書いていく。

 

まず最も違和感を持ったのが、三葉と入れ替わった瀧の行動が、現在に影響を与える描写が全くないことだ。三葉が隕石の落下により死亡していることを知った瀧は、再び三葉と入れ替わる事で、村人全員を救おうと行動を起こすわけだが、この考えはいくらなんでも飛躍しすぎなように思える。例えばアニメ版『時をかける少女』だったら、タイムリープを繰り返す度に、現在がちょっとずつ変わっていく描写を丁寧すぎるほど見せてくれる。『バタフライ・エフェクト』だったら、過去を変える度に、現在が悲惨になっていく様子と人物の心境をウェットに見せてくれる。『君の名は。』にはそういった描写が全くなく、あらゆることを「結び」という便利な言葉で済ませてしまっている。

 

次に気になったのは、三葉が父を説得するシーンが抜けていることだ。瀧が説得できなかった父親を、三葉がどうやって説得するかは、後半のスペクタル以上の見せ場のはずなのだが、編集によりあえてカットされてしまっている。この編集には、人間の綺麗な要素だけをスクリーンに映し出そうとする、作り手の考えが伺える。映画全体にいえることだが、綺麗な背景の中で、登場人物が綺麗事ばかり喋っている、という画作りが徹底されており、なんだか漂白された世界を見せられている気分にさせられる。このような漂白された映画を見るたびに思うことだが、こんな居心地の悪そうな世界には絶対に住みたくない。三葉と父親の会話は、きっと漂白された世界に残された黒いシミだったはずだ。そうした異物を描ききってこそのフィクションだと思う。

 

そんなわけで、君の名は。』は見終わった直後は面白い映画だが、決して好きな映画ではないし、傑作だとは微塵も思っていない。なにより許せないのは、手のひらに名前を書く重要なシーンで、瀧が何の役にも立たない愛の告白をすることだ。

「そのあと大人になるまで再会できなかったのは、お前の身勝手な行動のせいだからな!」

新海誠作品を思い返してみると、『言の葉の庭』のほうがよっぽど良くできていたことに気付かされる(ただし、スタッフロールで新宿御苑で飲酒禁止と表示されたときの無念は絶対に忘れない)。

 

このままの勢いならスターウォーズ越えはしそうなので、今後も興行収入を見守っていきたい。なんだかんだでこれだけのヒット作が生まれることは喜ばしい。

日本歴代興行成績上位の映画一覧 - Wikipedia

 

君の名は。』で新海誠に興味を持った方には、下の二本をオススメする。 

 

秒速5センチメートル [Blu-ray]

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ヘイトフル・エイト(2016年)

ヘイトフル・エイト
The Hateful Eight
監督 クエンティン・タランティーノ
脚本 クエンティン・タランティーノ
製作 リチャード・N・グラッドスタイン(英語版)
ステイシー・シェア
シャノン・マッキントッシュ
製作総指揮 ボブ・ワインスタイン
ハーヴェイ・ワインスタイン
ジョージア・カカンデス
ナレーター クエンティン・タランティーノ
出演者 サミュエル・L・ジャクソンカート・ラッセルジェニファー・ジェイソン・リーウォルトン・ゴギンズデミアン・ビチルティム・ロスマイケル・マドセンブルース・ダーン、ジェームズ・パークス、チャニング・テイタム

イングロリアス・バスターズ」「ジャンゴ 繋がれざる者」のクエンティン・タランティーノ監督の長編第8作で、大雪のため閉ざされたロッジで繰り広げられる密室ミステリーを描いた西部劇。タランティーノ作品常連のサミュエル・L・ジャクソンを筆頭に、カート・ラッセルジェニファー・ジェイソン・リーウォルトン・ゴギンズデミアン・ビチルティム・ロスマイケル・マドセンブルース・ダーンが出演。全員が嘘をついているワケありの男女8人が雪嵐のため山小屋に閉じ込められ、そこで起こる殺人事件をきっかけに、意外な真相が明らかになっていく。音楽をタランティーノが敬愛する巨匠エンニオ・モリコーネが担当し、第88回アカデミー賞で作曲賞を受賞。モリコーネにとっては、名誉賞を除いては初のアカデミー賞受賞となった。70ミリのフィルムで撮影され、画面は2.76:1というワイドスクリーンで描かれる。(映画.comより抜粋)


映画『ヘイトフル・エイト』最新予告映像

 

ついに『ヘイトフル・エイト』のBlu-rayとDVDが発売された。劇場版から半年ぶりの鑑賞だったが、緊迫した会話劇、ダイナミックかつリッチな映像といった、本作の持つ魅力的な要素は、二度目の鑑賞こそ楽しめるものだった。そういった要素を支えるウルトラ・パナビジョン70について、今回改めて勉強したので、自分の復習の意味でもまとめていく。

 

ウルトラ・パナビジョン70(Ultra Panavision 70)とは『ベン・ハー』や『バルジ大作戦』といった60年代の映画で使用された撮影方式だ。アスペクト比は2.76:1。一般的な映画で用いられるシネスコが2.34:1なのだから、比べると非常に横長の画面なのが分かる。

 

なんとなく難しいカメラの話に思えてくるが、仕組み自体は非常に簡単だ。まず65mmフィルム専用のカメラを用意し、アナモフィックレンズを取り付ける。アナモフィックレンズとは映画フィルムにワイド映像を記録するときに用いられる特殊なレンズのことを指す。これを取り付けて撮影すると、画面を水平方向に圧縮・縮小して記録できる。こうして撮影された映像は、70mm映写機に取り付けられたアナモフィックレンズで元のサイズに拡大され、ウルトラ・パナビジョン70としてスクリーンに映し出される。

 

サミュエル・L・ジャクソンの言葉を借りて、さらに簡単に説明しよう。「撮影で使うのは65mmフィルム。これを70mm映写機で写すと、通常の2倍の大きさになる」 というわけだ。

 

ウルトラ・パナビジョン70が最後に使用された映画は66年の『カーツーム』。『ヘイトフル・エイト』は実に50年ぶりとなるウルトラ・パナビジョン70で撮影された映画なのである。この一度は途絶えてしまった技術を復活させたことで、本作は密室劇ながら奥行き感のある画面構成になっており、多くのタランティーノフォロワーの映画とは一味違った映画体験を味わえる。中でも映画の中盤にデイジー・ドメルグがギターを弾くシーンは、手前と奥で違うことをしている人物をピント調節だけで切り替えて映し出す白眉の演出となっている。この映像のためだけにBlu-rayを買う価値はあるかもしれない。私は買った。

 

 

 

 

「ヘイトフル・エイト」オリジナル・サウンドトラック

「ヘイトフル・エイト」オリジナル・サウンドトラック

 

 

 時代設定が似ているジャンゴも必見。

 

スティーブ・ジョブズ(2015年)

スティーブ・ジョブズ
Steve Jobs
監督 ダニー・ボイル
脚本 アーロン・ソーキン
原案 ウォルター・アイザックソンスティーブ・ジョブズ
製作 マーク・ゴードン、ガイモン・キャサディ、スコット・ルーディンダニー・ボイル、クリスチャン・コルソン
出演者 マイケル・ファスベンダーケイト・ウィンスレットセス・ローゲンジェフ・ダニエルズ
スラムドッグ$ミリオネア」のオスカー監督ダニー・ボイルが、アップル社の共同設立者スティーブ・ジョブズの生き様を描いた伝記ドラマ。ジョブズ本人や家族、関係者へのインタビューを中心に執筆された伝記作家ウォルター・アイザックソンによるベストセラー「スティーブ・ジョブズ」をもとに、「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンが脚本を担当。1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMacというジョブズの人生の中で最も波乱に満ちていた時期に行なわれた3つの新作発表会にスポットを当て、人々を魅了した伝説のプレゼンテーションの舞台裏を通し、信念を貫き通そうとする姿や、卓越したビジネスセンスを浮かび上がらせていく。さらに娘リサとの確執と和解といったエピソードも盛り込み、ジョブズの素顔を浮き彫りにする。「それでも夜は明ける」のマイケル・ファスベンダージョブズを熱演し、共演にも「タイタニック」のケイト・ウィンスレット、「グリーン・ホーネット」のセス・ローゲンら豪華キャストが集結。(映画.comより抜粋)

 

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ブルーレイ版を鑑賞。21世紀に生きる我々なら、プレゼンする姿くらいは一度は見た事があるスティーブ・ジョブズの伝記ドラマを、個人的に大好きなダニー・ボイル監督が映画化。鑑賞して驚いたのが、ジョブズの人生を、新製品発表前の慌しい舞台裏のを通して描いている事。具体的に書くと、1984年Macintosh、 1988年NeXTcube、 1998年iMacの三回の舞台裏になるが、それぞれ30分程度の時間をかけて、ほぼリアルタイムで見せてくれる。

 

特筆すべきは、ダニー・ボイルならではの疾走感がいつもとは異なることだろう。ダニー・ボイルといえば、誰かしらが走っている姿をカメラが追い、キャッチーなBGMを流して、テンポよく映画を見せていくスタイルが特徴的だ。良くも悪くも勢いがある演出を得意としている監督といえる。

 

ところが、本作ではジョブズが一度も走らない。というか走る空気じゃない。ジョブズが運動する姿なんて見せられても誰も喜ばないから仕方がないことだが、そこはアカデミー賞監督であるダニー・ボイル、ちゃんと作戦を変えてきた。それは、圧倒的な台詞量と、新製品発表前の慌しさのど真ん中に観客も引きずり込むということだ。

 

あらゆる登場人物達が、慌しい環境下でノンストップで喋り倒すのだから、観客は疾走感の大波に飲み込まれるしかない。昔のダニー・ボイルは疾走感を出すために作品全体が大味になりがちだったが、多くの映画を撮ってきた結果、ついにこの欠点を克服したといえるだろう。

 

この点に関しては脚本の貢献も忘れてはいけない。本作の脚本は『ソーシャル・ネットワーク』や『マネーボール』で有名なアーロン・ソーキンが担当。台詞量が多いながら、ジョブズの人物像や、そのときの心境を、観客がすんなりと理解できるような構成になっている。

 

ここまで書くと完成度が高い映画に思えてくるが、個人的には、終盤になるほど疾走感にいまいち乗れなかった。だって新製品発表前に、わざわざプライベートの重い話をする人なんているはずないんだから。周りの話かける人物達は嫌がらせをしているんだろうか、ジョブズは発表会前でしか他人と話せない呪いにかかっているんだろうか、そんな事ばかり思い浮かんできて映画に全く集中できなかった。

 

ただ確実にダニー・ボイルの演出力は上がっているわけで、それを確認できただけでも大満足。『トレインスポッティング2』がますます楽しみになってきた。

 

  

ブルーレイ発売済み。

 ダニー・ボイル監督といえばこの二本。

トレインスポッティング [Blu-ray]

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スラムドッグ$ミリオネア[Blu-ray]

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月日の残酷さ『ALAN WAKE』


Alan Wake - Trailer (Game Trailer HD) - YouTube

 

2010年にXBOX360で発売され、アメリカ『TIME』誌で2010年ベスト・ゲームに選出。 
アメリカのド田舎へ旅行に訪れた有名作家アラン・ウェイクが、スーパーナチュラルな光と闇の戦いに巻き込まれながら、行方不明となった妻を探すサイコスリラー。スティーヴン・キングヒッチコックへのオマージュが満載という点で一部マニアが大喜びしたことでも有名。 

先日XBLAで本作の番外編となる『Alan Wake's American Nightmare』がセール価格で購入したこともあり、今更ながら手を出してみた。 
敵が「闇」というだけあって、ゲームの大半は夜のマップでプレイすることになる。ゲームにおける映像表現が向上したことにより、広大な世界を自由に探索するできるオープンワールドがトレンドとなっているなか、わざわざ視界が悪いマップを用意し、懐中電灯を使わないとまともに移動もできない、不便極まりない環境を作り出しているのが興味深い。 
この世界は現実と幻想どちらなのか、ウェイク自身は正気と狂気の間を彷徨っているのではないか。暗闇の中を歩くほど、ゲームはウェイクの内面へと踏み込んでいく。こうした心理描写をゲームに取り入れる場合、日常から断絶された環境を用意するのが効果的なのは、『サイレントヒル』や『バイオショック』のような成功例からも明らかだ。 
これは簡単なようだが、本作はマイクロソフトが発売元であり、それなりの開発費をかけ、大々的に宣伝をしたXBOX360の看板タイトルである。下手をするとゲームがこじんまりとした印象になってしまう設定をわざわざ採用する決断力を讃えたい。2010年を代表するだけのゲームだけのことはある。各エピソードの開始時に流れる「これまでのアラン・ウェイク」は海外ドラマブームの影響も垣間見れて非常に楽しめた。 

ただ3年という時間は残酷なもので、カットシーンの多さ、わざわざ足を止めないと楽しめないラジオやテレビ番組といった小ネタの数々は、今見ると少々古臭い。コントローラーを操作しない時間が多すぎるせいで、せっかく作りこまれた世界権への没入感は中断の連続のためやや薄い。これは残念であると同時に、ゲームの進化の早さを驚かされる。