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曇天パッチ

『殴る、斬る、撃つ』 暴力エンターテイメント好きの視点

映画『ハドソン川の奇跡』 表面化してこない真実

ハドソン川の奇跡

Sully

監督 クリント・イーストウッド
脚本 トッド・コマーニキ
原作 チェスリー・サレンバーガー、ジェフリー・ザスロー(英語版)
製作 クリント・イーストウッドフランク・マーシャル、ティム・ムーア、アリン・スチュワート
製作総指揮 キップ・ネルソン、ブルース・バーマン
出演者 トム・ハンクスアーロン・エッカートローラ・リニー

名匠クリント・イーストウッド監督がトム・ハンクスを主演に迎え、2009年のアメリカ・ニューヨークで起こり、奇跡的な生還劇として世界に広く報道された航空機事故を、当事者であるチェズレイ・サレンバーガー機長の手記「機長、究極の決断 『ハドソン川』の奇跡」をもとに映画化。09年1月15日、乗客乗員155人を乗せた航空機がマンハッタンの上空850メートルでコントロールを失う。機長のチェズレイ・“サリー”・サレンバーガーは必死に機体を制御し、ハドソン川に着水させることに成功。その後も浸水する機体から乗客の誘導を指揮し、全員が事故から生還する。サリー機長は一躍、国民的英雄として称賛されるが、その判断が正しかったのか、国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われる。(映画.comより抜粋)


C・イーストウッド監督×トム・ハンクス主演『ハドソン川の奇跡』予告編

 

2009年に起こったUSエアウェイズ1549便不時着水事故の映画化作品(原題:Sully)。監督するのは現在86歳クリント・イーストウッド。主人公サリーは航空機を無事ハドソン川に不時着させるも、その後は機長としての責任を国家運輸安全委員会から厳しく追求されることで、精神的に追い詰められていき、度々墜落の悪夢と幻覚に悩まされるようになる。本作は、調査により浮かび上がってくる疑惑、サリーを取り巻く環境といった様々な要素が絡み合い、ただのノンフィクションではなく、観客を巻き込んだ手に汗握るエンターテイメントに仕上がっている。

 

本作を一言で表すとすれば「一本のピンと張られた糸」だろう。一切の無駄がなく、装飾的な演出は排除され、途中でダレることもない。張り詰めた空気感で満たされた、ミニマルな映画だ。

 

作中でサリーが妻ローリーと初めて電話する際の会話を思い出してみよう。状況を伝えたいサリーだが、報道陣がうるさいためローリーは感情的になり電話を切ってしまう。事前にサリーの家庭に人並みの問題があることを臭わせる台詞があるため、このさりげない会話だけで、サリーが抱える問題や家族関係が垣間見えてくる。本作ではこうした無駄の無い演出が多数見られる。観客の知っている不時着水事故の事実だけでは見えなかった背景や感情が巧みに描かれており、さすがはイーストウッドと思わず膝を打つ。

 

出演者の多くがキャリアの中でもベスト級の演技をしている点にも注目だ。イーストウッドの撮影といえば、演技への指示は最小限で、出演者に考えさせて演じさせることで有名だ。救出シーンでは本物の救助隊員が多数出演しており、それに混じって出演者達は自分が今なにをしたらいいのかを考えながら立ち振る舞う。こうした環境を作ることで、作品のリアリティは格段に上がるし、出演者達の緊張感ある演技を引き出せている。こんなところも、さすはイーストウッドと(以下略)。良い所がありすぎて膝が壊れるかと思った

 

実話は誰もが結末を知っているから映画化は難しい。イーストウッドはインタビューで「彼らはその真ん中を知らない」と言った。観客はいつどこで何が起きたかは知っていても、その真ん中に何が起こっていたかは知らないというわけだ。表面化してこない部分を描ききった本作は、イーストウッド作品では何本目かわからない傑作である。私はイーストウッドの映画が公開される度に「これで最後かも・・・」と、年に一度するかしないかという深刻な顔つきでスクリーンと対峙している。来年も再来年も新作が公開されることを心の底から願う。

 

次回作の「衝撃に備えろ!」

 

 

 

イーストウッドはここ10年ほど監督作が全て傑作という偉業を達成している。